2010年8月17日

Google Wave について考えてみる

Google から Google Wave のサービス終了がアナウンスされました。年末を目処に現在のサービスは使えなくなるそうです。かなり唐突な印象のあるアナウンスで、トップダウンで決定が下されたんだろうな、と考えられます。このアナウンスに対する感想は人によって非常に様々で、それがゆえに Wave の多面性を表しています。とりあえず自分なりに感じたことをつらつらと書き留めておきます。 もうすぐ Google Wave 入門も発売されるのに残念です。

いきなりサービスについてどうこう書く前に、いくつかの背景を確認し直してみます。まずは何と言っても Eメールです。新しいコミュニケーションの在り方に焦点を当てた Google Wave の着想は、Eメールとインスタントメッセンジャーに由来するものだからです。

Eメールのプロトコル

Eメールには大雑把に言って次のプロトコル (データ通信の取り決め) があります。

SMTP はEメールを送る方法、POP3 はEメールを受け取る方法です。郵便の場合で考えると、切手を貼って郵便ポストに投函するまでが SMTP、家の前の郵便受けを確認して取り出すのが POP3 という感じです。POP3 は私書箱であるという説明資料もありますが、郵便ポストと自宅の郵便受けは異なるモノであることが分かれば、SMTP サーバと POP3 サーバが別々であることもなんとなく理解できます。とはいえ、メールソフトの設定で二つのサーバを指定するのが面倒なのは間違いありません。 また、家で郵便物を読んでから出先に持ち出すことは簡単ですが、Eメールの場合は意外と厄介です。常に同じノートパソコンを使っていれば解決するかもしれませんが、1kg もしくはそれ以上は重たいと感じる人も多いでしょう。この辺りの問題を解決してくれるのが IMAP4 です。複数の端末で同じメールボックスを参照しますので、未既読管理とフォルダ管理を共有できます。携帯電話で「後で読む」と印を付けておいて、パソコンで後から読み返すことができます。

プロトコルは違えどEメールには郵便の概念が色濃く反映されています。郵便で困ることは、届くまでに時間がかかること、投函した後に書き直せないこと、自分が送った手紙と相手から送られてきた手紙が独立なので組み合わせることが難しいこと、今現在に相手が手紙を書いているかが分からないこと、などが挙げられます。これは Eメールでも一緒です。企画書や議事録を作り上げる場合はとても不便なことが多々あります。

そうは言っても、Eメールのプロトコルが提案されたのは今から15年以上も前のことであり、スマートフォンは登場しておらず、Yahoo! も Google も誕生していません。ざっくり考えると Web 以前の時代と言えます。不便なことが多くても仕方ありません。大事なのは、それをどうやって改善していくかです。

ネットとメール

最近はインターネットと Web は同義で使われます。HTTP の使えないインターネット環境を望むのは余程の好き物でしょう。 Web の誕生前後で何が大きく変わったか?という問いには多様な答えがあると思いますが、自分が思うのは、プロトコルの簡素化とネットワークノードの飛躍的な増大です。 プロトコルは言わずもがなの HTTP です。HTTP は人間が読んで (それなりに) 簡単に理解できる形式で、データの通信量という観点からは冗長ではありますが、データを利用する観点からは特殊なツールが不要であるために取り組みやすい、という特徴があります。詳細に仕様を理解しなくても流れているデータを読めばなんとなくは理解できる、という利点は大きく、Web に加わるノードが増大して今の世界があるのは現実を見れば明らかです。

ここ10数年で大きく世界を変えてきた Web もしくは HTTP とそれに付随する仕組みですが、今でも強敵が残っています。Eメールです。 「パソコン買って何するの?」という質問に対する答えの大半は「ネットとメール」です。ケータイ利用の大部分も「電話とメールと時々ネット」です。電子マネーやゲームという選択肢も増えてきてはいますが、端末を買い替える動機としてはまだ弱いと思います。

ネットとメールを使えれば十分という発言は、利用者が端末に過度な機能を期待しなくなってきていることの表れですが、ちょっと見方を変えてみると、ネットだけでは不十分でメールも必要であることを意味します。つまり、メールは仕分けされていない、と。世界中の通信事業がひとつの組織で運営されていて、その組織に勝気な発言をする女性でもいれば、予算が削減されて来年度からは SMTP/POP3/IMAP4 辺りのデータが排除されるのかもしれませんが、実際にはそうはいきません。「メールがなくてはダメなんですか?」と聞かれれば「はい、ダメです。」と答える人も多いでしょう。 コミュニケーションのプラットフォームとして Eメールが確固とした地位を築いてきた証拠です。インフォメーションにはネットを使い、コミュニケーションにはメールを使う、という感じでしょうか。

しかし、SNS の台頭によってコミュニケーションもネットにシフトしつつあります。単純な変化なのか、それとも多様化なのかは人/世代によって異なると思いますが、ネットとメールの境界線が薄れてきていることは確かです。 Web の枠組みだけでコミュニケーションも実現できると、ソフトウェアはかなり簡素化されます。簡素化されるのは開発者にとってだけでなく利用者にとってもです。ネットを見るときはブラウザを起動して、メールを見るときはメールソフトを起動して...ということがなくなります。プロトコルも統合されると、ネットワークのファイアーウォール設定に煩わされることも少なくなります。

と、まぁ、この辺りが「Eメールの次」を考える上での出発点なのかな、と思います。つまり、利用できて当然という立ち位置から、どのようにして Web に統合していくのか、という点です。Google の Chrome OS のように、全てのユーザーインタラクションを Web ブラウザ (のようなもの) で処理することを考えると、「ネットとメール」ですら機能過多です。すべてをネットで処理できる、それが新しいコラボレーションないしはコミュニケーションの在り方ではないのかな、と。

次は

Eメールについてもう少し考えてみます。確かに不便な面もありますが、Eメールと Web では「システムが分散されている」という共通点があります。分散されていると何が嬉しいのかをまとめてから、メールのメンドクサイ部分をもう少し掘り下げてみます。

その後で気が向いたらインスタントメッセンジャーのプロトコルに関しても言及し、Wave がやろうとしていたことに進んでみます。 いつ書くのかは分かりませんが。

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