2013年6月12日

AWS Summit Tokyo 2013 に行ってきた

AWS Summit Tokyo 2013 に行ってきました。 初日は基調講演だけでしたが、2日目は終日参加してきました。 様々な業種の会社の方々が登壇されており、AWS のエコシステムが広がっていることを実感しました。 Amazon.com の CTO の Werner Vogels 氏が引用した、CEO の Bezos 氏の言葉がとても印象的でした。

創造性を解き放ち、夢を追い求める力を人に与えるものが、もっとも革新的で変革力のある発明なのです。

  • 1日目・キーノート
  • 2日目・キーノート
  • デジタルマーケティングにおけるクラウド適用俯瞰図
  • 大規模案件の裏側 ~巨大AWSインフラ事例のご紹介~
  • クラウドで RTB ~50ms or die. を支えるFreakOut の AWS 活用~
  • お客様のビッグデータ活用をナビゲーション ~ビッグデータ×クラウド活用の現状とマーケティング事例~

1日目・キーノート

初日のキーノートは Amazon.com で CTO を務めている Werner Vogels 氏。

AWS はもはや単なるテクノロジーではなく、ひとつの大きなビジネスと言えます。S3は8年目を迎えており、AWS の API は HTTP と XML しか規定していないため、すべてを選べるアーキテクチャになっています。Marketplace ではソフトウェアを1クリックで購入できます。これは Amazon と同じモデルです。

AWS には充実した Web コンソールもありますが、すべてのサービスが API で統合されていることにより、利用ユーザーを巻き込んだエコシステムの構築が進んで来た、という流れにはとても共感しました。それにしても、ここまで徹底的にプログラマブルなアーキテクチャを作って公開して運用してる、という現実がスゴいですね。

多様なデバイスの普及により潜在的なユーザー数が膨大な時代になってきましたので、頑張って安全な容量設計を行っても、それを超えるアクセススパイクがやってくることも多々あり、「不確実性への対処」が重要とのこと。また、投資額が少ない内に失敗できるので、実験できる機会が増え (more experiment)、それによって革新を生み出す可能性が高まっている (more innovation) と言っていました。
その中で、情報基盤はコモディティ化しており差別化しにくい、新しいスタイルのプログラマブルなアーキテクチャが必要になっている、という話の流れでした。

ユーザーからのフィードバックに関しては "rely on your feedback" と説明しており、「イノベーション」「新サービス」「アップデート」のサイクルをしっかり回してきたことを力説していました。
キーノートには EMR もしきりに登場しました。550万ものクラスターが起動されているそうです。ビッグデータへの関心が高まっていますので、企業の経営層や管理部門には響くメッセージなのかもしれません。
キーノートの最後には、Redshift が東京リージョンでも利用できるようになったとの発表もありました。また、AWS トレーニングの全てのコースが日本語でも提供開始されたそうです。

キーノートの途中ではゲストスピーカーも何人か登壇しました。

  1. Obama for America の CTO だった人は、超大規模なアーキテクチャでも testing と staging を用意し、大災害にも対応 (disaster recovery) できるようにしたことを紹介してくれました。現物のハードウェアを必要とするシステムでは複数の実行環境を用意することが大変なことが多いですが、AWS ではこの辺が自由なのが嬉しいですね。
  2. 続いて日経新聞の小柳さん。日経電子版のタブレットとスマホのWebアプリはAWSでホスティングするようになったことを紹介してくれました。お金はあるけど(!)人の時間をかけられないことが大きな課題で、それまでのシステムではメンテナンスに労力がかかって開発を進められなかったそうです。 いくつかのアンケートデータを紹介してくれました。AWS を導入するに当たっての最大の懸念点がセキュリティの場合が多いそうですが、導入後の満足ポイントが最大なのもセキュリティだそうです。なんだか面白い話ですね。例として挙げられた「お金を金庫に入れるか銀行に預けるか」という説明がとてもしっくりきました。
  3. トヨタメディアサービスの藤原さんは、トヨタの考え方と AWS の考え方が似ている、とのご紹介。 以前のシステムではサービスの機能が重複して新機能の開発を進められない状態だったそうです。これは「無駄なものを省く」というジャストインタイムの思想に合致しません。SOA とクラウドサービスで類似している「作る」から「使う」「組み合わせる」という考え方で移行を進めた結果、1日でも早く1円でも安くサービスを提供できるようになったそうです。計画したときよりもAWSの価格も下がっていて、 パフォーマンス改善が必要なときに、一時的にリソースを追加してから内部的に修正を進め、改善されたらリソースを戻す、というフローも採用したそうです。 トヨタでは毎日やることが改善で、頭で考えているだけではダメ、という言葉も伝統ある会社だと重みがありそうです。
  4. 最後のゲストスピーカーは Cycle Computing の CEO。 HPC (High Performance Computing) の分野のスタートアップですが、AWS 上で1万台以上のインスタンスが稼働しているそうです。 管理には Chef を使っていました。 数十年かかる計算を一週間くらいで実現できて100万円くらいの規模感だそうです。 ゲノム解析など、医療・製薬の分野では膨大な計算量を必要とすることが多いらしいので、現実的な時間で結果が返ってくるようになると、これまで治療できなかった病気への光明が見えるかもしれません。

2日目・キーノート

2日目のキーノートはアマゾン データ サービス ジャパン株式会社 代表取締役社長の長崎さん。 世界的な AWS では来場登録者は36000人以上にもなっていて、東京は9400人超だそうです。
AWS がイノベーションを起こすことで、顧客に利益を還元できることを強調していました。 実際、コスト構造を見直すことで2006年以降に31回の値下げを実施しています。 2万以上の顧客がいることで、規模の経済が働き、カスタマーのエコシステムも広がっています。 大規模な運用を実現するためには技術力も必要になりますので、ノウハウが蓄積されることでそれを顧客に還元できます。

また、ビルディングブロック (AWS の個々のサービスのこと?) が増加してきたので、多くの業種にリーチできるようになっています。 AWS は多くのセキュリティ基準にも準拠しており、顧客はコアコンピタンスに集中できるようになります。 今まで運用業務に携わっていたエンジニアが開発に従事できる、という流れはどの企業にとってもメリットが大きそうですね。
色々な使い方が現実のものとなってくると気になるのは運用にかかる費用。AWS Trusted Advisor というものを開発し、価格を抑える提案を自動的に実現できるようになったそうです。例えば、EC2 のスポットインスタンスからリザーブドインスタンスに切り替えると???円くらい安くなりますよ、といったこと提案してくれるとのこと。

2日目もキーノートの途中で何人かのゲストスピーカーが登壇しました。

  1. 東京海上日動の稲葉さんは、AWS 導入の経緯などを紹介してくださいました。 まず、従来の社内基準を再評価し、何を実現すべきかを定義しました。 物理的なセキュリティと論理的なセキュリティを精査したという点は、課題の切り分けがうまくいっていそうです。 今後はAWS認定エンジニアの育成を図っていくそうです。
  2. 三井物産の前川さんは、開発・検証の環境としてクラウドを利用する、というコンテキストでの登壇です。 AWS はバックアップ環境としても期待できるので、 ロードマップをひいて、オンプレミス、プライベイトクラウド、パブリッククラウドと順次導入を進めるそうです。
  3. SAPジャパン社長の安斎さんはオンプレミスとクラウドの話。 SAP は、今後5年間で "everything mobile", "everything cloud", "everything in-memory" と予測しているんだそうです。 会社理念の「リアルタイム経営を実現する」ために "cloud first, cloud fast" で余計な制約を取り除くことに注力しています。標準化、簡素化、スピード という理念は SAP と AWS が合致しており、グローバルで提携すると判断したんだそうです。
    安斎さんの話の直前に、オンプレミスとクラウドを組み合わせたアーキテクチャとして、音楽配信の mora が紹介されていました。 課金処理はオンプレミス、データ配信処理はクラウドを使っているそうです。 既存資産(顧客情報など)を流用しながらクラウドを統合していく流れは分かりやすいですね。
  4. 最後に日立製作所の岩田さん。 社会イノベーション事業で世界に応える日立へ、ということで、日立とクラウド、みたいな話でした。

デジタルマーケティングにおけるクラウド適用俯瞰図

アマゾン データ サービス ジャパン株式会社の今井さん。 広告マーケティングの最近の流れを説明して頂き、各セグメントで要求されること、それに AWS でどう応えているか、といった話で業界の全体像としてはとても分かりやすいセッションでした。

マスマーケティングと 1-to-1 マーケティングにおいて、統合されたデータ管理が重要になってきており、DMP (data management platform) への期待が大きくなってきています。 当初は個人をターゲットにしたデータ解析がマスマーケティングに拡がることで、柔軟なキャパシティが要求され、さらに拡がることで高スループットと低レイテンシも要求されるようになってきました。その結果、リーチするユーザー層も拡大し、データ量自体も増えてきています。 これらの間には経済性と即応性のトレードオフがありましたが、AWS ではオンデマンドでスケーラブルなインフラを用意できます。

広告配信の基本として、広告を表示するときは SSP (supply side provider) と DSP(demand side provider) の間で短時間に大量のトランザクションが発生します。 この辺は後のセッションで参加した FreakOut の人の話が具体的でした。

「クラウドは遅い」という都市伝説もありましたが、広告事業でも十分な実績が出てきています。 仮説ではなく実証によるシステムサイジングを進めることで、投資判断を効率化します。 つまり、キャパシティプランニングの在り方が変わっていると言えます。

AWSの事例としては、アメリカの AdRoll はコアテクノロジとして DynamoDB を利用しているそうです。 マスタデータ管理にも利用するくらいに依存しているんだそうです。 サービスの組み合わせ方は各社異なりますが、基本的にデータ (オリジンデータ) は S3 に置いて、解析は Hadoop だったり Redshift だったりする、という点は一緒でした。

大規模案件の裏側 ~巨大AWSインフラ事例のご紹介~

cloudpack の後藤さん。 cloudpack は AWS を使ったレンタルサーバーのイメージで、「定額課金」「日本円による請求書」が嬉しいところです。 企業が導入するに当たっては、予算計画を立てやすく、稟議も安心なんだそうです。7インスタンスまではバースト保障も含まれているそうです。

テレビを観ながらスマホでも遊ぶ「ダブルスクリーン」のトライアルとしてエヴァンゲリオンのキャンペーンを実施したそうです。 スマホからは API を叩くだけなので、従来型のページ遷移とはアクセス特性も変わってきます。 ここで難しいのが負荷試験。実際は人海戦術で実験したそうです。
ケンコーコムのシステムを移行した話では、最初だけデータインポートが必要で、そこで高い処理能力が要求されるので、一時的にインスタンスタイプを変更して対応した、という点はクラウドコンピューティングの強みです。
その他、月間1億PVにも達するトヨタのホームページは、新車発表時は約3倍のアクセスだそうですが、CloudFormation で耐障害性も高い作りになっているそうです。

クラウドで RTB ~50ms or die. を支えるFreakOut の AWS 活用~

FreakOut の溝口さん、久森さん。 RTB とは Real Time Bidding の略で、広告配信の裏側の仕組みのことです。 リアルタイムオークションは2年で30倍くらい増加しているそうです。 広告の表示までは0.1秒が許容時間と考えられていますが、TCP の RTT (Round Trip Time) も含む時間なので、サーバ側で許容される処理時間は50msくらいになってしまいます。 メニーコアで効率的に動いてくれないと困るので、FreakOut では三桁台数のサーバーマシンを自前で作って管理しているそうです(データセンター内に間借り)。 データ配信部分にAWSを採用し、S3 と CloudFront を使ってるよ、という話でした。 海外展開にあたっては VPC でシステムを構築したそうですが、VPC では使えないミドルウェアのサービスもあったので、自分たちで EC2 上に構築したとのこと。

途中途中で質問を受け付けてしまったがために、自作マシンのことに質問が集中してしまい、内容がブツ切れでAWSの話に進まなかったのが残念。。最後は求人だったので、それはそれで良かったのかもしれませんが。

お客様のビッグデータ活用をナビゲーション ~ビッグデータ×クラウド活用の現状とマーケティング事例~

伊藤忠テクノソリューションズの保木さん。 ガートナーの戦略テクノロジーを紹介。「アクショナブルなアナリティクス」という項目もビッグデータと関連して登場した戦略と言えます。 ビッグデータの活用は、どうして可能になったのか?という技術的な側面と、なぜ必要になったのか?という社会的な側面が会いまって活況を呈している、というスライドは分かりやすかったと思います。

ビッグデータの活用に関しては、定期的な処理はオンプレミス、不定期な処理はクラウドで行うパターンが今のところは多いそうです。 また、業績が好調な企業と低迷している企業では、データ活用に関する有意な差が出ているとも。 データを活用すれば業績が向上するとは言えませんが、好不調の原因のひとつではありそうですね。

色々な相手に説明しているからなんでしょうが、クラウドに関する説明資料として図が分かりやすいセッションでした。 まずはアセスメント、次にトライアル。個別にコンサルティングしてきた事柄を CTC BD-Navi としてパッケージングして販売しているそうです。 spacial 系の機能や share point 連携などもあるそうです。


雑感

想像以上に参加者の多いイベントで、本当にビックリしました。 また、登壇する人は大企業でもそれなりのポジションの人が多く、AWS の導入が広がってることを実感しました。 もはや共通インフラとなったクラウド環境、という流れになってきましたので、最初はバズワードでも広がると強いもんだなぁと実感しました。
ハードウェアを自前で管理する必要がなくなると、コアコンピタンスに集中できる人や会社も増えるでしょう。 何を選択し何に集中すべきかで変わってくることも多くなるんだろうなぁと、何となくぼんやりと思いました。

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